目次
防衛機制とは
防衛機制(Defense Mechanism)は、精神分析における概念であり、ジークムント・フロイトによって提唱されました。
防衛機制とは、自我(エゴ)が外部からのストレスや内的な葛藤から自分を守るために無意識的に行う心理的なプロセスです。これにより、個人は精神的な安定を保つことができます。
ハーバード大学教授ジョージ・E・ヴァイラントは、防衛機制を人のこころの成熟度により分類できるとしています。
ヴァイラントは、防衛機制を以下の4つのカテゴリーに分類しました。
- 精神病的防衛機制(pathological defences)
- 未熟な防衛機制(immature defences)
- 神経症的防衛機制(neurotic defences)
- 成熟した防衛機制(mature defences )
防衛機制のみで人の成熟度を測ることはできません。
ですが、どの段階の防衛機制をどれくらいの頻度で用いているかによって、ある程度の指標にすることができます。
それではそれぞれの防衛機制についてご紹介していきます。
あわせて読みたい
防衛機制(defense mechanism)とは
防衛機制は、自我が外部からのストレスや内的な葛藤から自分を守るために無意識的に行う心理的なプロセスです。
これにより、個人は精神的な安定を保つことができます。
あわせて読みたい
エゴ(自我、ego)とは
エゴ(自我)は、心理学において非常に重要な概念であり、特に精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトによって広く知られるようになりました。エゴは、個人の意識的な自己認識や自己評価、自己制御に関連する心理的な構造を指します。
1. 精神病的防衛機制
精神病的防衛機制は、現実を歪めることで不安を軽減しようとするメカニズムです。これらの防衛機制は、精神病的な症状を呈することが多いです。最も原始的な年齢が5歳以前の子どもに多く見られます。自己愛的防衛( Narcissistic defences)とも言われています。
転換(Conversion): 抑圧された衝動や葛藤が、麻痺や感覚喪失となって表現されることがあります。手足が痺れたり、失立失歩(脱力し立ったり歩けなくなる)、声が出なくなる失声症や視野が狭くなる、嚥下困難、不食や嘔吐などの症状が出る場合があります。
あわせて読みたい
転換(Conversion)とは
転換とは、防衛機制の一種であり、抑圧された感情や衝動が身体的な症状として表れる現象です。例えば、強いストレスやトラウマを経験した人が、身体の一部が麻痺したり、感覚を失ったりすることがあります。これらの症状は、医学的な原因が見つからない場合が多く、心理的な要因が関与していると考えられます。
否認 (Denial): 不快な現実を認めず、存在しないかのように振る舞うことです。例えば、重大な病気の診断を受けた人が、その事実を完全に否定することがあります。
あわせて読みたい
否認(Denial)とは
否認は、現実の出来事や感情を認めず、無視することで心理的な安定を保つ防衛機制です。
これは、受け入れがたい現実や感情に直面した際に、それを認識しないことで不安やストレスを回避しようとする無意識のプロセスです。
代替(Compensation): 個人が自己の欠点や不足を補おうとすることです。適度に行われる場合には健全な防衛機制となりますが、過度に頼ることは問題を引き起こす可能性があります。例えば、他者への優越感や物質的な成功、能力の向上を過度に追求することで自己評価を高めようとしたりします。
あわせて読みたい
代替(Compensation)とは
代替(Compensation)とは、個人が自己の欠点や不足を補うために行う心理的なプロセスです。これは、自己評価や自己認識を維持し、不安やストレスを軽減するために使用される防衛機制の一つです。
歪曲 (Distortion): 現実を自分に都合の良い形に歪めることです。例えば、自分の失敗を他人のせいにすることがあります。
あわせて読みたい
歪曲(Distortion)とは
歪曲とは、現実や事実を自分の都合の良いように歪めて解釈する防衛機制です。これは、現実の受け入れがたい部分を無意識に変形させることで、心理的な安定を保つために行われます。歪曲は、幻覚や幻想、誇大妄想などの形で現れることがあります。
投影 (Projection): 自分の受け入れがたい感情や欲望を他人に転嫁することです。例えば、自分が他人を嫌っているのに、他人が自分を嫌っていると感じることがあります。
あわせて読みたい
投影とは(Projection)とは
投影(Projection)は、精神分析における防衛機制の一つであり、自分の受け入れがたい感情や思考を他人に押し付けることを指します。
これは無意識的に行われるものであり、自分の内面の否定的な側面を他人に投影することで、自分を守ろうとする心理的なメカニズムです。
分裂 (Splitting): 物事を極端に良いか悪いかのどちらかで捉えることです。例えば、ある人を完全に理想化する一方で、別の人を完全に悪とみなすことがあります。
あわせて読みたい
分裂(Splitting)とは
分裂(Splitting)は、防衛機制の一つで、特に幼少期や精神的に不安定な時期に見られることが多いです。分裂は、物事や人々を「全て良い」または「全て悪い」と極端に二分することで、不安やストレスから自分を守る心の働きです。
躁的防衛(Manic defence): 自分の大切な対象を失ったり、傷つけたりしてしまったと感じた時に生じる不快な感情(不安や抑うつなど)を意識しなくてもいいようにするために行います。「優越感(征服感)」「支配感」「軽蔑感」などの感情に特徴づけられます。
あわせて読みたい
躁的防衛(manic defense)と抑うつポジション(depressive position)
躁的防衛(manic defense)とは、精神分析学の概念で、精神的苦痛から逃れるために現実を否定し、自分の都合のよいように解釈する防衛機制の一種です。
2. 未熟な防衛機制
未熟な防衛機制は、子どもや未熟な成人がよく使用するメカニズムで、現実逃避や自己中心的な行動が特徴です。成人に見られることもありますが、3歳〜15歳に多く見られる防衛機制です。
退行 (Regression): より幼い発達段階に戻ることです。例えば、ストレスを感じたときに子供のように振る舞うことがあります。
あわせて読みたい
退行(Regression)とは
退行(regression)は、個人がストレスや不安に直面したときに、より幼い段階の行動や思考パターンに戻ることを指します。
これは、心理的な防衛機制の一つであり、無意識のうちに行われることが多いです。
退行は、個人が現在の状況に対処するための一時的な手段として機能します。
空想 (Fantasy): 現実から逃避して空想の世界に浸ることです。例えば、困難な状況に直面したときに、理想的な未来を夢見ることがあります。
あわせて読みたい
「空想形成・幻想」(Fantasy)(悲嘆のモデル)
悲嘆の12段階モデルの中で、7段階目に位置するのが「空想形成・幻想」です。
受動攻撃 (Passive Aggression): 直接的に攻撃するのではなく、間接的に不満を表現することです。例えば、故意に遅刻することで他人に対する不満を示すことがあります。
あわせて読みたい
受動攻撃(Passive Aggressive)とは
受動攻撃(Passive Aggressive、パッシブ・アグレッシブ)とは、怒りや不満などのネガティブな感情を直接的に表現せず、間接的な方法で相手に伝える行動を指します。
行動化 (Acting Out): 抑圧された感情や欲望を行動で表現することです。例えば、怒りを感じたときに物を壊すことがあります。
あわせて読みたい
行動化(Acting Out)とは
行動化(Acting Out)は、精神分析学や心理学における防衛機制の一つであり、内的な葛藤や感情を直接的な行動として表現することを指します。行動化は、特に抑圧された感情や欲求が意識に上がることを避けるために用いられます。
あわせて読みたい
スパイト行動(spite behavior)とは
スパイト行動とは、自分が損をしてでも他人に利益を与えないようにする行動を指します。英語の「spite(意地悪)」から派生した言葉で、意地悪な行動や振る舞いを意味します。
3. 神経症的防衛機制
神経症的防衛機制は、現実をある程度受け入れながらも、不安を軽減するためのメカニズムです。これらの防衛機制は、一般的に健康な成人が使用しますが、過度に使用すると問題を引き起こすことがあります。
抑圧 (Repression): 不快な記憶や感情を無意識に追いやることです。例えば、トラウマ的な出来事を忘れることがあります。
あわせて読みたい
抑圧(Repression)とは
抑圧(よくあつ)は、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトによって提唱された防衛機制の一つです。
抑圧は、個人が受け入れがたい、または不快な思考、感情、欲望、記憶などを無意識に押し込め、意識から締め出すプロセスです。
これにより、個人はこれらの不快な要素を意識的に認識することなく生活を続けることができます。
反動形成 (Reaction Formation): 自分の本当の感情を隠すために、逆の行動を取ることです。例えば、嫌いな人に対して過剰に親切にすることがあります。
あわせて読みたい
反動形成(Reaction Formation)とは
反動形成は、個人が受け入れがたい感情や衝動を抑圧するために、その感情や衝動とは正反対の行動や態度を取ることです。
例えば、強い憎しみを抱く相手に対して、好意的に愛想よく振る舞うことが挙げられます。
これは、無意識の中で抑圧された感情が意識に上がるのを防ぐためのメカニズムです。
合理化 (Rationalization): 自分の行動や感情を合理的に説明することです。例えば、失敗を他人のせいにすることで、自分を正当化することがあります。
あわせて読みたい
合理化(Rationalization)とは
合理化とは、防衛機制の一つで、個人が自分の行動や感情を正当化するために、論理的で受け入れやすい理由を見つけ出すことです。
これにより、自己評価を保ち、罪悪感や不安を軽減することができます。
置き換え (Displacement): 本来の対象に対する感情を別の対象に向けることです。例えば、上司に対する怒りを家族にぶつけることがあります。
あわせて読みたい
置き換え(Displacement)とは
置き換え(Displacement)は、感情や態度などを本来の対象ではなく、別の対象に向けて表現、発散する防衛機制です。
これは、元来の対象に対して感情を表現することが危険で不安を感じる場合に、より安全だと思われる別の対象に向けて感情を表出することを意味します。
4. 成熟した防衛機制
成熟した防衛機制は、現実を受け入れつつ、建設的に対処するためのメカニズムです。これらの防衛機制は、精神的に健康な成人がよく使用します。年齢としては12歳以降で用いられる防衛機制です。
昇華 (Sublimation): 社会的に受け入れられない欲望や衝動を、建設的な行動に変えることです。例えば、攻撃的な衝動をスポーツに向けることがあります。
あわせて読みたい
昇華(Sublimation)とは
昇華(Sublimation)は、フロイトによって提唱された防衛機制の一つで、社会的に受け入れられない欲求や衝動を、社会的に受け入れられる形に変換するプロセスです。
これは、無意識のうちに行われることが多く、個人が内的な葛藤や不安を解消するための手段として機能します。
ユーモア (Humor): 困難な状況を笑い飛ばすことで、ストレスを軽減することです。例えば、失敗をジョークにすることがあります。
あわせて読みたい
「新しい希望ーユーモアと笑いの再発見」(悲嘆のモデル)
アルフォンス・デーケンの悲嘆の12段階モデルにおける「新しい希望ーユーモアと笑いの再発見」は、悲嘆のプロセスの11段階目に位置します。
抑制 (Suppression): 意識的に不快な感情や思考を抑えることです。例えば、仕事中に個人的な問題を考えないようにすることがあります。
あわせて読みたい
抑制(suppression)とは
抑制(よくせい)は、防衛機制の一つであり、意識的に不安や不快を感じるような出来事や考えを避けるプロセスです。
抑圧と似ていますが、抑制は意識的に行われる点が異なります。
知性化 (Intellectualization): 感情的な問題を理論的に分析することで、感情を抑えることです。例えば、失恋を心理学的に分析することがあります。
あわせて読みたい
知性化(Intellectualization)とは
知性化は、防衛機制の一つで、感情や衝動を理性的に分析し、知的な理解を通じてそれらを処理しようとする方法です。
これにより、感情的な苦痛を軽減し、冷静に対処することができます。
先取り(Anticipation):将来を見越して先に対策を打っておくことで問題が悪化することを防ぐことができます。例えば、「どこかで失敗するものだろう」と予め考えておくなどです。
あわせて読みたい
先取り(Anticipation)とは
先取り(Anticipation)は、防衛機制の一つであり、将来の出来事や状況に対して予測し、事前に対策を講じることで不安やストレスを軽減する方法です。これは、成熟した防衛機制の一つとされ、問題解決能力や適応力を高めるために重要な役割を果たします。
まとめ
防衛機制は、私たちが日常生活で直面するさまざまなストレスや不安に対処するための重要なツールです。しかし、これらのメカニズムを過度に使用すると、逆に問題を引き起こすことがあります。バランスを保ちながら、適切に防衛機制を活用することが重要です。
あわせて読みたい
防衛機制(defense mechanism)とは
防衛機制は、自我が外部からのストレスや内的な葛藤から自分を守るために無意識的に行う心理的なプロセスです。
これにより、個人は精神的な安定を保つことができます。
あわせて読みたい
エゴ(自我、ego)とは
エゴ(自我)は、心理学において非常に重要な概念であり、特に精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトによって広く知られるようになりました。エゴは、個人の意識的な自己認識や自己評価、自己制御に関連する心理的な構造を指します。